台風と花束

2026/6/27

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台風が来るというのに、家にはピーマン7個入り一袋と、サッポロ一番味噌ラーメンしかない。起きたらまだ雨も小ぶりだったので、顔を洗って、口紅だけひいて食料を買いに行くことにした。(macのウォームテディ。引き出しにずっとしまったままになっていたのを思い出してつけてみたら、すごくいい感じだった。名前もとてもかわいい)

           

道すがら、家々の庭から溢れでる紫陽花や夾竹等が雨に濡れているその美しいさまにじんわり心打たれる。水を含んだ朝の光にすべて霞がかって、その景色の中にいると、なんだか世界がやわらかく感じられる。

稲村ヶ崎の郵便局あたりからみえる海は灰色で、不規則に波が舞い上がり、白い飛沫が散っていた。それなのに波乗りを楽しむサーファーがいて驚く。大丈夫かな。

         

雨足が強まってきたので、セブンイレブンで、バナナやらプリンやらパスタやらをさっさと買って、早足で帰路へ。だけど途中に、「もうおしまいですが、挿し木にして半年後からのお花を楽しんでください」という張り紙と、庭で摘んだのであろう紫陽花がどっさり箱の中に入れられているのを見つけ、思わず一束頂いてしまう。ずぶ濡れの花束。

      

歩きながら、希望だな、と思う。庭で草木を育てている人は、半年後に咲く花の楽しみを抱えて生きているんだ。それって、すごくまぶしいしすごく素敵だ。わたしは今、庭がほしい。それでつい庭のことばかり考えてしまう。花や草木や、土の匂いや、その土の中にいる、名もなき生物のことばかり考えてしまう。いつか自分の庭を持って、そこに美しい世界を生み、育ててみたい。「秘密の花園」みたいに。デレク・ジャーマンみたいに。

家に帰りつくと同時に、いよいよ雨は本降りになってきた。わたしはバナナを食べながら雨を眺める。台風と地震と富士山の噴火が一気に来たらどうしよう。昨日の夜電話した吉田さんは、「その時が来たら、もう終わりやろ」と言っていたけれど。

              

だけど今はともかく、そう、台風であろうが、世界がやわらかかろうが、わたしは仕事をしなければならない。ふう。

おとなしく、目の前のことに向き合うとしよう。

       
         

「自分だけの庭」を、育てるために。

それを、秘密の、花園とするために。

ーー梨木香歩「物語のものがたり」より